緩和医療では患者の心のケアもできる薬剤師が求められます

末期のがん患者等の心身の症状を和らげる

「緩和医療」は病気の根本的な治癒を目指すものではなく、進行するがんなどの痛みや吐き気等のつらい症状を緩和していく医療のことです。病気の診断がついた時点から様々な症状が出現するため、薬物療法はその症状を緩和するための有効な手段となります。

薬剤師は患者の状態に合わせた適切な薬物療法を提供し、その効果や副作用のモニタリングを行ったり、以下で解説する薬剤の適正使用評価や薬剤情報提供(服薬指導)を行うことが求められます。その際には、患者の症状を包括的にアセスメントし、他の医療者と協働してチームで取り組むことが大切となります。

  1. 薬剤の適正使用評価

処方内容が妥当なものであるかを確認することは、最も基本的かつ重要な役割ですが、投与初期の段階から薬剤師が関与して処方提案できるようにすることが求められます。そのためには次に挙げる視点がポイントとなります。

病態生理の理解と心理状況の把握
緩和医療の領域ではがん等による疼痛コントロールが特に重要となりますので、その患者の痛みの特徴にあった薬剤を選択するためには病態生理を十分に理解することが必要です。痛みは心理的な要因も含め「トータルペイン(全人的な痛み)」として捉えて実践することが非常に大切となります。

薬物動態の理解
患者の肝腎機能に応じた薬剤選択、投与量の調整、またオピオイド・スイッチング時に適切な提案を行うためには、薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄、効果発現時間、効果持続時間、最高血中濃度到達時間、血中濃度半減期)を理解することが重要です。

科学的根拠のある薬剤選択
緩和医療の領域では、科学的根拠が明らかになっている薬剤の種類はまだまだ少なく、保険適用外で使用する薬剤が多いため、予期しない副作用が出る可能性があります。薬剤師は論文検索により最新薬剤情報を確認し、最も有効かつ安全な薬剤を選択することが求められます。そのためには、論文検索ができ、批判的吟味を行い、患者に応用できる技能が望まれます。

副作用・相互作用
薬剤の副作用を予測し、その対策も含めた処方提案が薬剤師に求められます。なかでもその症状は薬剤に起因する副作用症状なのか、疾患に起因した症状なのかを判断し、薬剤の必要性を検討しなければなりません。

例えば、悪心は薬剤による副作用と疾患に起因した症状だけではなく、心理的な要因も関与するため、総合的に原因を判断する技能が必要となります。また、薬剤師同士による相互作用のチェックにより、副作用を未然に防ぐことも大切な役割です。

薬物療法の効果判定
終末期には患者の意識がないケースも少なくないため、薬剤の投与中止や継続などの判断が難しくなります。特に、オピオイド鎮痛薬の効果判定では、一般にNRSによる主観的な情報により効果判定を行いますが、意識がない場合には、つらそうな症状はないか、逆に効き過ぎて眠気が出ていないか等の客観的な情報や検査値データ(肝腎機能、電解質、炎症反応など)を加味した上で、判断しなくてはなりません。

  1. 薬剤情報提供

情報提供は教育的な側面を持っており、患者に対しては「服薬指導」、医療者に対しては「カンファレンスや勉強会」などを通じて薬剤情報を艇庫輸して共有することが必要となります。

服薬指導
患者やその家族には、モルヒネ等のオピオイドを終末期に使用する「怖い」薬剤と誤解している人が大勢います。薬剤師は安全な薬剤であることを説明し安心して使用できるようにかかわることが大切な役割となります。また、家族の薬剤管理状況を把握し、本人が管理できていない場合には家族への指導が必要となります。

医療者間における情報共有
患者の症状は日々変化し、それに合わせて治療方針も変わっていきます。また患者や家族の心も症状によって大きく揺れ動いていきます。薬剤師はそのような情報を常に医療スタッフと共有し、薬剤の適正使用を検討することが大切です。

がんの終末期は複数の合併症や症状が出現し、その症状をコントロールするために多くの薬剤が処方されるため、どの薬剤が効いているのかが把握しにくい状態となります。

薬剤師は処方された薬剤の効果や副作用を観察し薬剤調整をするという専門的な視点だけではなく、その薬剤の必要性を包括的に捉え、最低限の薬剤で症状をコントロールできるように処方提案をしなくてはなりません。

また、患者の意思、家族の意向などを踏まえた処方提案をするためには、薬剤師は患者の側に寄り添って耳を傾け、心のケアもできる必要があります。そのためには、薬剤師の専門性を磨くことは勿論、患者や医療者との円滑なコミュニケーションを行える態度を身につけ、患者・医師・看護師に信頼される薬剤師にならなくてはなりません。

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